慶應義塾大学医学部 眼科学教室
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近視総合

近視生物学研究部門

近視生物学研究部門

近視とは、眼球に侵入した光線が網膜より手前で焦点を結ぶ屈折状態のことであり、その本質は眼軸長の伸長という眼球の形態変化です。屈折の異常を伴うこの眼軸伸長(病的眼軸伸長)は不可逆的で、伸長した眼球、特に後眼部は伸長ストレスを受け続けることになり、その結果網膜剥離や黄斑症、視神経症につながります。そのためメガネなどによる屈折状態の緩和では十分とは言えず、病的眼軸伸長の予防・進行抑制が重要です。しかしながらエビデンスに裏付けられた効果的な予防・進行抑制法はほとんど存在せず、その大きな原因の1つは近視発症および進行の分子機序が明らかではないことが挙げられます。我々は科学的なエビデンスに裏付けられた近視進行予防法・進行抑制法の開発を目指し、以下のような研究を行っています。

① バイオレットライトによる近視進行抑制機序の解明

我々は異なる眼内レンズを挿入した患者の追跡調査から、VLを透過する眼内レンズを挿入した患者においてその後の眼軸伸長が抑制されることを見出しました(Torii et al, Sci Rep, 2017)。また、このVLはヒヨコ、マウスおよびヒトにおいて近視進行抑制効果があることを見出しました(Torii et al, EBioMedicine, 2017)。さらにVLによる近視進行抑制は網膜に存在する非視覚型光受容体タンパク質であるOPN5を介していること、他の波長の光には近視進行抑制効果は認められないことを明らかにしました(Jiang et al, PNAS, 2021)。今後OPN5がどのように近視進行抑制を担っているのか、より詳細な研究を進めていきます。

② 食事由来成分による近視予防法創出

VL研究の中で近視進行抑制遺伝子をしてEgr-1を見出しました。そこでEgr-1プロモーターの下流にルシフェラーゼを繋いだ遺伝子を発現させた細胞株を用いたスクリーニング系を構築し、食事由来成分に近視進行抑制効果があるものを探索したところ、クロセチンに強いEgr-1誘導作用があることが明らかになりました(Mori et al, Sci Rep, )。このクロセチンは実際にマウスおよびヒトにおいても近視進行抑制効果があることが明らかになり、すでにサプリメントとして商品化されています。また、牛乳などに含まれるラクトフェリンというタンパク質は、近視が進行する際に生じるコラーゲンのリモデリングを抑制することで近視進行を抑制することも明らかになりました(Ikeda et al, Nutrients, 2020)。さらには腸内細菌叢と近視進行に関しても研究を進めており、食習慣による近視進行予防の確立を目指しています。

③ 近視発症・進行の分子機序の解明

近視もその予防が重要ですが、ある程度近視が進行してしまっている場合はそれ以上眼軸伸長しないようにすることが網膜剥離や黄斑症、視神経症といった合併症に至らないためには重要です。そのためには近視が発症する仕組み、進行する仕組みを理解し、分子標的を見出すことが必須です。我々はOPN5を介した近視進行・発症制御、眼軸長制御における脈絡膜の関与、強膜リモデリングを担う分子機序に着目し、研究を進めています。

④ 近視進行抑制薬の新規創出

上記③における分子機序に関する知見をもとに、慶應義塾大学医学部眼科学教室ではすでに企業とともに近視進行抑制薬の開発を進めています。