慶應義塾大学医学部 眼科学教室
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「起業のすゝめ」
視覚再生の夢の実現に向けて

堅田 侑作(2012年入局)

君は昨日患者さんに処方した薬・行った手術でどれだけ国民の税金を使ったか気にしていますか?
日本の保険医療は国民皆保険制度の上に成り立っており、この制度のお陰で、医師も患者も医療費のことを気にせずベストな治療を行えておりますが、皆さんが第一線で活躍する頃には破綻しているかもしれません。なぜなら高齢化と高額な最先端医薬・医療機器の登場で医療費の増加はとまらず、制度維持のために40兆円を超える医療費の4割が税金で補填されているからです。さらに、それが国産薬であればまだ税金として戻ってきますが、コロナワクチン然り、近年の高額な新薬・医療機器はすべて海外にシェアを奪われ、皆さんがベストな医療を提供するほど国民の税金が海外流出し、日本経済に負担をかけています。
この問題の解決策の一つが、日本から新薬創出をすることで、そのための手段がベンチャーです。現在、世界の大手製薬企業は新薬創出力を失っており、新薬創出の現場は米国の大学発ベンチャーが中心になっています。そうした背景から慶應医学部でもそういった研究成果の実用化できる大学発ベンチャー創出支援を目的とした医科学研究連携推進センターが今年度から設置され、次世代の経済成長を担うイノベーション企業の創出に本腰を入れつつあります。
眼科学教室では坪田一男名誉教授がそういったイノベーション創出にいち早くから取り組んでおり、眼科学教室からは既に4社のベンチャーが誕生しております。
その1つが現在私が代表を務める株式会社レストアビジョンです。同社は眼科学教室の栗原俊英先生の研究成果から視覚再生遺伝子治療薬開発を実現するために設立された創薬ベンチャーで、ベンチャーキャピタル(投資家)からの調達資金をもとに、国の大型助成金も得つつ、世界初の視覚再生遺伝子治療薬を患者さんに届けるべくプロジェクトを推進しています。
私は現在慶應病院の網膜変性外来を担当しつつ、九大法学部出身で副社長の宮﨑輝氏(研究成果のビジネス化の立役者)と二人三脚で、事業計画に沿って、薬剤開発、非臨床試験の管理、臨床試験の準備、各種規制対応、製薬企業との交渉、知財管理、法務対応、資金調達、会計管理、人材管理といった会社経営を行っております。
ルーチンワークがほとんどなく、初めてのことばかりで大変ですが、「起業医」という選択は患者さんだけでなく、日本経済も救える非常にやりがいのある仕事です。
このようなキャリアが積めるのも、こういった活動を理解し、支援していただいている根岸教授・眼科学教室の皆さんのおかげです。このキャリアに導いてくださった坪田教授、研究を指導して下さった栗原先生を含め、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

本社のあるCIC Tokyoにて副社長の宮﨑(右)と(慶應含む6大学のTR部門が主催するResearch Studio 2021での優勝記念写真)

眼科医にとっての“起業”とは?

清水 映輔(2015年入局)

はじめまして、慶應義塾大学医学部眼科学教室/OUI Inc.(ウイインク)の清水映輔と申します。私は、眼科医であると同時に、慶大眼科の仲間とともにOUI Inc.を起業して、医療機器開発を行い、世界の失明を半分にしようと考えています。

もともと、医学以外の教育を受けたこともない自分が、なぜ起業するに至ったか、それは、頼もしい仲間、眼科医として一人前になりながら、何事にもチャレンジできる環境、そして、世界の失明を半分にできると確信したアイデアに出会うことができたからです。

私たちが起業したのは、2017年6月、専攻医の時でした。きっかけは、藤島浩先生(S?? 入局)が理事長を務められている、眼科の国際支援を行う NPO fight for visionの活動で、ベトナム無料白内障手術ボランティアに参加しことでことです。
発展途上国には、眼科医はもちろん眼科医療機器がほとんど存在しません。患者さんは歳をとれば眼が見えなくなることが当たり前であるといった世の中でした。意外なことに、このような地域でも、スマートフォンはほぼ全員が所持しており、「スマートフォンに眼科診察ができる機能があれば、診断が普及して、失明人口が減るのではないか」と考えました。帰国後、中学からの同級生である明田直彦先生 (H26入局)と矢津啓之先生(H26入局)とともに、工房にこもり、自分たちの眼を使い、1年半かけて前眼分の診察が可能なスマホアタッチメント「Smart Eye Camera (SEC)」の開発に成功しました。

しかし、開発するだけでは、実際の臨床現場で使用することはできません。そのため、最短に臨床現場で使用できる方法を模索した結果、自分たちで医療機器を作って実用化しようということで、「起業」と言う選択肢になりました。
当然、起業当初は、ベンチャーに対する知識が全くありませんでした。運良く、同時期に慶応大学が医学部発ベンチャーを応援する体制が徐々にできつつあった時期でもありました。
3名の仲間とともに様々なことを学び合いながら、開発を進め、2019年6月にSECを医療機器としてPMDAに届出を行い、実用化に成功いたしました。さらに、日本だけでなく、世界実用化するために、2021年6月には欧州医療機器として届け出を完了し、現在20カ国以上、100台以上のSECが世界中で活躍しています。

起業して数年、慶大眼科はじめ、様々な方々にサポートいただきながら事業を進めております。最も重要なこととして、まずは眼科医として一人前になる必要があると思います。自分たちは運良く、ベトナムの医療現場で医療ニーズに出会うことができました。しかし、これは眼科医として本気で現場で働いていないと発見できていないと思います。眼科専門医としてしっかりと専門性を持ちつつ、見つけたニーズの解決策を実用化することが新しい医師の役割の一つとなると思います。また、くじけそうになった時に励ましあうことができる仲間や、何事にもチャレンジできる多様性を大事にする慶大眼科の環境があってこそのOUI Inc.だと考えています。
眼科医にとって、「失明」は他科医師にとって患者様がお亡くなりなることと同義と考えています。慶應義塾大学発の医療機器を用いて、世界の失明を半分にすることを目標に、今後研究や事業を進めていこうとおもいます!